は皆な其處此處から集つて來た。誰も彼も荷物を負つた。七八歳になる子供まで皆な小さな包を負はせられた。
 一行はもう三十人近くなつてゐた。先に行くものもあれば、後からつゞくのもある。勞れた足を引摺るやうにしてゐるものもあれば、さつさと元氣よく先に立つて行くものもある。路は高原から林の中に入り杜の中からまた高原へと出て行つた。
 此處等はもう里からは遠く離れてゐた。里の樵夫も、此處までは入つて來たやうな路はなかつた。谷川の音が何處か遠くで咽ぶやうにきこえた。
 一行の最後を、常公とその妹娘とが並んで歩いて行つた。山坂にかゝると、常公は娘を後から押すやうにした。二人は一行の姿の見えるか見えない位のところを歩いてゐた。
『ちよつくら休むべい。』
 かう言つては二人は路傍の木の根に腰をかけた。
『姉さん、泣いたゞ、……姉さんにわるいでな。』
『よく言ふでな、俺が……』
『でも姉さん一人ぼつちになつて了つてな。それが、何よりわりい……』
『何か言つたか。』
『何にも言はねえ。』
『でも、知つちやゐるな。』
『知つてるともな……』
『でも仕方がねえや、かうなつたんだで……。唯、おんさんが怖いな。』
『…………』
 暫くしてから、『皆なにはぐれるとわるいで、もう行くべいや。』
『大丈夫だ。』
『でもな……』
『俺ア、路、知つてゐるだで、大丈夫だよ。あとから行くべい。』
『でも、さむしいや。』
『さむしいもんか、この俺がついてゐる。』
 ぐいと抱き緊めるやうに男がすると、
『厭、厭……』
『いやなことがあるもんか。……昨夜だッて來たぢやねえか。』
『でも、厭……』
 常公はそれにも拘らず、手籠にでもするやうにしつかり抱きついて、『な、來年はな、うんと稼ぐべいな。一緒に、會津から南部まで行くべい。そしてうんと金貯めて來べいな。可愛い奴ぢやな。』
『あほらしい。』
 娘はにこりと笑つて見せた。
『行くべいよ、もう……』
『さア行くべ。』
 で、二人は立上つた。見ると、一行は林をぬけて、山坂へかゝつたらしく、羊膓とした路を彼方此方とたどつて行くさまが手に取るやうに見えた。山が午後の晴れた空に鮮かに美しく聳えてゐた。

         六

 故郷近くなつても、一行は急ぐやうな樣子を見せなかつた。其處に一日、彼處に一日といふ風にして、テントを張つては、ゆつくりと泊つて行つた。
 金を貯めて
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