くして下女は細君に命ぜられて、二階に洋燈《ランプ》を点けに行ったが、下りて来る時、一通の手紙を持って来て、時雄に渡した。
時雄は渇したる心を以て読んだ。
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先生、
私は堕落女学生です。私は先生の御厚意を利用して、先生を欺きました。その罪はいくらお詫《わ》びしても許されませぬほど大きいと思います。先生、どうか弱いものと思ってお憐《あわれ》み下さい。先生に教えて頂いた新しい明治の女子としての務め、それを私は行っておりませんでした。矢張私は旧派の女、新しい思想を行う勇気を持っておりませんでした。私は田中に相談しまして、どんなことがあってもこの事ばかりは人に打明けまい。過ぎたことは為方が無いが、これからは清浄な恋を続けようと約束したのです。けれど、先生、先生の御煩悶が皆な私の至らない為であると思いますと、じっとしてはいられません。今日は終日そのことで胸を痛めました。どうか先生、この憐れなる女をお憐み下さいまし。先生にお縋《すが》り申すより他、私には道が無いので御座います。
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[#地から2字上げ]芳子
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先生 おもと
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