を外《はず》れた、他人から誤解されるようなことは致しません。誓って、決して致しません。末ながら奥様にも宜《よろ》しく申上げて下さいまし。
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[#地から2字上げ]芳子
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先生 御もと
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この一通の手紙を読んでいる中、さまざまの感情が時雄の胸を火のように燃えて通った。その田中という二十一の青年が現にこの東京に来ている。芳子が迎えに行った。何をしたか解らん。この間言ったこともまるで虚言《うそ》かも知れぬ。この夏期の休暇に須磨《すま》で落合った時から出来ていて、京都での行為もその望を満す為め、今度も恋しさに堪《た》え兼ねて女の後を追って上京したのかも知れん。手を握ったろう。胸と胸とが相触れたろう。人が見ていぬ旅籠屋の二階、何を為ているか解らぬ。汚れる汚れぬのも刹那《せつな》の間だ。こう思うと時雄は堪《たま》らなくなった。「監督者の責任にも関する!」と腹の中で絶叫した。こうしてはおかれぬ、こういう自由を精神の定まらぬ女に与えておくことは出来ん。監督せんければならん、保護せんけりゃならん。私共は熱情もあるが理性がある! 私共と
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