いのに出て来るような、そんな軽率な男でないと信じておりますだけに、一層|甚《はなはだ》しく気を揉《も》みました。先生、許して下さい。私はその時刻に迎えに参りましたのです。逢《あ》って聞きますと、私の一伍一什《いちぶしじゅう》を書いた手紙を見て、非常に心配して、もしこの事があった為め万一郷里に伴《つ》れて帰られるようなことがあっては、自分が済まぬと言うので、学事をも捨てて出京して、先生にすっかりお打明申して、お詫《わび》も申上げ、お情にも縋《すが》って、万事円満に参るようにと、そういう目的で急に出て参ったとのことで御座います。それから、私は先生にお話し申した一伍一什、先生のお情深い言葉、将来までも私等二人の神聖な真面目《まじめ》な恋の証人とも保護者ともなって下さるということを話しましたところ、非常に先生の御情に感激しまして、感謝の涙に暮れました次第で御座います。
田中は私の余りに狼狽《ろうばい》した手紙に非常に驚いたとみえまして、十分覚悟をして、万一破壊の暁にはと言った風なことも決心して参りましたので御座います。万一の時にはあの時|嵯峨《さが》に一緒に参った友人を証人にして、二人の間が決
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