太い調子づいた声に、多くの無智《むち》の男女をあくがれしめたが、突然お作はこれとでき合って、こんなところはつまらぬ、人の出盛る温泉場に行けばもっとおもしろいことがあると、誘うも誘わるるも、行く水の思いのままなる二人連れ、こんな故郷はどうでもよいと、お作は闇に住み馴れた地を離れた。
西に百里の温泉場に来て二人は暮らした。楽しかったのは、ほんのつかの間、いや、旅に出るより早く二人は既に――争いを始めた。野に生まれて、野に生《お》い立《た》って、そして野に食物をあさる群れの必ず定まって得る運命――その悲しいつらい運命にお作も邂逅《でくわ》した。
捨てられてお作は泣いた。続いて、十四の時、知らぬ旅客の背中に石を投げつけたと同じような忿怒《いかり》をはげしく心頭に起こした。けれど泣いたり、怒《おこ》ったりしただけでは、その終わりを告げることはもうできなかった。お作はその時懐妊して七か月目であった。
七か月より臨月までの苦痛、労働のできる間は種類を選ばず労働して、刻々に迫り来る飢餓と戦った。新道の道普請に、砂利《じゃり》車のあと押しをして、熱い熱い日の下に働いていたが、ふとはげしい眩惑《げん
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