いかけて捉《とら》えられて、路傍の門に細引きでくくり付けられ、あるいは長い物干竿《ものほしざお》で、走る背なかを撲《う》たれて、路上に倒れて膝頭《ひざがしら》を石に二寸ほど切って泣いたことなどもあった。白壁の土蔵、樫《かし》の刈り込んだ垣《かき》、冠木門《かぶきもん》、物心がついてから心から憎いと思ったのは、村の物持ちで、どうしてこの身ばかりこう賤《いやし》く、こう憎まれ、こう侮られ、こう打たれるのかと思った。それに、叔父にもよく打たれた。言うことを聞かぬとか、物をよく食うとか、仮寝《うたたね》をするとか、なんぞと言っては、どやしつけられるのがつらさに、ある時などは、村の路《みち》に通りかかった旅商人らしい男に縋《すが》って、どこへでもいい、どんな難儀をしてもいいからいっしょに連れていってくれと頼んだ。村から西に一里ほど、水の少ない石川があって、その向こうに楊樹《やなぎ》の繁茂、路のほとりに一箇の石地蔵、それをお作はいつでも思い出した。追いかけて頼んでも縋っても、旅客は知らぬ顔をしてずんずんと先に行く。初夏の日影は美しく光って、麦の緑が静かな午後の微風に揺《うご》いている。その石川の楊
前へ
次へ
全12ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
田山 花袋 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング