て計算して見たりした。「そうだ――これが十円、これが二十円、これが五円、確かに出来る、一軒分だけ払下げを願って置いて、それに開墾をさせれば、二年かかれば無論出来る。そうすれば、こんなにして遠い路を歩かなくっても好い。豊饒な土地は何んなにでも生活の道を与えて呉れる。そうだ、そうだ、帰ったら、早速着手しよう。何も官憲などを恐れている必要はないんだ。独立独行だ!」さも大きな独創的な考を得たように、膝を叩いて勇吉は跳り上って喜んだ。それは広く四辺が見渡されるような処であった。向うには山毛欅の森や白樺の林が広く遠く連っていた。此処等あたりまでは、開墾者もまだ入って来ないと見えて、低い灌木の野や、笹原や、林の中に、路が唯一筋細くついているばかりで、あたりには百姓の姿も見えなかった。夏の日が明るく心持好くかれの腰をかけている草地を照した。
「そうだ、そうだ。それに限る!」
 かれはまた絶叫した。そしてまた新しいことに気が附いたというように、早く鉛筆を紙の上に動かして計算をした。
 これに限らず、勇吉は草の上に寝ころんで休むことがすきだった。上には空と日の光があるばかりだ。何んな大きな声を出しても誰も
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