りした。
 正月が来た。注連飾などが見事に出来て賑やかな笑声が其処此処からきこえて来た。
 しかし勇吉はじっとしてはいられなかった。正月の初めにもっと家賃の安い家を別な方面にさがして、遁げるようにして移転して行った。刑事の監視をのがれたいという腹もあった。出来るならば、この都会の群集と雑沓との中に巧みにまぎれ込んで了いたいと思った。しかしそれは矢張徒労であった。一週間と経たない中に刑事は其処にもやって来ていた。勇吉はわくわく震えた。
[#地から2字上げ](一九一四年三月「早稲田文学」)



底本:「日本プロレタリア文学大系 序」三一書房
   1955(昭和30)年3月31日初版発行
   1961(昭和36)年6月20日第2刷
入力:Nana ohbe
校正:松永正敏
2003年9月11日作成
青空文庫作成ファイル:
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