てもいられないような気がした。
「御飯は?」
「今、食う……。」
 こう言ったが、勇吉は夢中で膳に向かって二三杯暖いのをかき込んだ。で、いくらか元気が出て来た。「まア考えよう。」こう思って、蒲団を引ずり出して、古い汚い衿に顔を埋めたが、疲れているので、いつとなくぐっすり寝込んで了った。
 勇吉は一日、二日全く考え込んで暮した。百姓の事業の方も捨てて了うのは惜しいとは思ったが、これから先凶作が毎年つづくかも知れないと思うと、不安がそれからそれへと起って来た。それにかれの持っている土地を物にしようとするには、まだ少からぬ金が必要であった。今でさえ借りた金に困っているのに、此上金を工面することなどはとても出来なかった。貯金はいくらか持ってはいても、それは万一の時の為に残して置かなければならないものであった。勇吉は溜息をついた。
 ある日は何か思いついたことがあるように、急に勇み立って海岸の村へ出かけて行ったが、帰って来た時には、矢張しおれた動揺した顔をしていた。自分の住んでいる村の人達からはことにかれは何物をも得ることが出来ないのを見た。
「兎に角、こうしちゃいられない。こうしてぐずぐずして
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