のではない。三年も経てば余程目鼻が明いて来まさ。」こう年を取った近所の百姓は言って呉れた。ところが不仕合せにも二年目は天候は好い方ではなかった。菜種も、豆類も、粟もすっかり駄目だった。百姓はこぼしながら馬鈴薯や玉蜀黍などを食った。今年こそ、今年こそと言って、昨年の凶作の取りかえしをしようとした今年は、また昨年以上に天候がわるかった。暑い日影の照ったことなどは殆ど一度もないと言って好い位であった。秋の末のような薄ら寒い気候が農作に肝腎な夏の盛りのすべてを占めた。此処では、五日でも一週間でも好いから、くわっと暑い日の光線の照りわたるのが必要であった。強い日の光を受けさえすれば、作物は一日、二日の中に三尺も四尺も伸びるというような処であった。で作物は皆な成熟せずに終った。粟にも穂という穂もつかなかった。馬鈴薯さえ完全に出来なかった。豆、麦、稗、蕎麦――すべて小さくいじけて実を結ぶ間もないのに秋の霜は早くもやって来た。凶作という声が到る処に満ちわたった。物価は俄かに高くなった。とてもやり切れないなどと言って、半分耕した土地を売払って他国に行って了うものが頻々として続いた。ことに旅をして彼方此方
前へ
次へ
全38ページ中15ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
田山 花袋 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング