れは住職を置かないでは困るんですから、そのうち好いのがあつたらと思つてはをりますのです。無住でおきましたから、もう先住の拵《こしら》へた借金もあら方ぬけました……」
「兎《と》に角《かく》、由緒《ゆゐしよ》のある寺をかうして置くのは惜しい。」
「さやうですとも……」
で、その紳士は多くの布施《ふせ》を置いてそして帰つて行つた。
あとはまた長い月日が経つた。
二
新しく出来た住職は、四十二三位で、延びた五分刈頭、鉄縁《てつぶち》の強度の眼鏡、単衣《ひとへ》にぐる/\巻いたへこ帯、ちよつと見ては何《ど》うしても僧侶とは思へないやうな風采《ふうさい》であつた。
「あれが慈海さんけえ? 何《ど》うしてもさうは思へねえだ。丸で変つちやつたな。何処かの別な人としか思へねえな。あの可愛い小僧さんとは何うしても思へねえ。」昔を知つてゐる年を取つた村の婆さん達はかう言つて噂《うはさ》した。
若い住職に取つても、あたりは余りにひどく変つてゐた。変りすぎてゐた。これが昔のあの寺かと思つた。あの盛《さかん》な立派な堂々とした寺かと思つた。最初来た時には、これが先々代の老僧が威権を振つたあの
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