歩いていた幸太郎《こうたろう》という子供の帽子が浮かれだして、いつの間にか、幸太郎《こうたろう》の頭から飛下りて、ダンスをしながら街を駆けだしました。その帽子には、長いリボンがついていたから、遠くから見るとまるで鳥のように飛ぶのでした。幸太郎は、驚いて、「止れ!」と号令をかけたが、帽子は聞えないふりをして、風とふざけながら、どんどん大通りの方までとんでゆきます。
一生懸命に、幸太郎は追っかけたから、やっとのことで追いついて、帽子のリボンを押えようとすると、またどっと風が吹いてきたので、こんどはまるで輪のようにくるくると廻《まわ》りながら駆けだしました。
「坊ちゃん、なかなかつかまりませんよ。」
帽子が駆けながらいうのです。
すると、こんどは大通《おおどおり》から横町の方へ風が吹きまわしたので、幸太郎の帽子も、風と一しょに、横町へ曲ってしまいました。そしてそこにあったビール樽《たる》のかげへかくれました。
幸太郎は大急ぎで、横町の角まできたが、帽子は見つかりません。
「ぼくの帽子がないや」
幸太郎は、もう泣きだしそうになって言いました。帽子をつれていった風も、幸太郎を気の毒にな
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