。
あたしお正月がきたらこれだけよ、と言つて指を折つて見せるのは、わけもないことでした。しかしそれは少女の夢の国の生活を美しくするにはあまりにつまらない方法でした。あまつさへ老いやすい青春の日を数へるといふことは夢の国ではせぬことなのでした。
「今年からもう十六なんだよ」
母様の方がよくしつていらした。
お須美は黙つて微笑んでゐた。
夢の国では、すべてを秘密にする事であつた。秘密、秘密、秘密ほど美しいものが何処にあらうぞ。いつであつたかお須美は、学校の庭の鈴懸の木の根もとに穴をほつて、そこへSさんとAさんと三人で、思ひ思ひの物をお互に秘密にして小箱へ入れて誰にも知れぬ様に埋めておいた。小箱の中には、Sさんが何を入れておいたかAさんが何を秘したかお須美も知らねば、またお須美が何を埋めたか、AさんもSさんも知らない。毎日その木の根もとへ行つては、三人で微笑んでゐた。
「何を笑つてるの」
先生がさうおたづねになった。
夢の国の掟は、先生さへも犯されぬ、三人は、ただ微笑んでゐた。答をせぬ生徒を先生はぷんぷんお怒りになつて往つておしまひなすつた。三人は、それを見てまた笑つてゐた。
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