言われて、お磯もあきらめて、お家の方へ帰りました。
「もしか、お人形が、人買《ひとかい》に連れてゆかれたらどうしましょう。それともお化《ばけ》が出てきて食べないかしら」
お磯はそれが心配でした。
けれど、人買もお化も連れてゆきませんでした。長い草は微風《そよかぜ》にふかれながらも、人形を誰《だれ》からも見えないように、上手にかくしてくれました。だから人形は、日がくれてもじっとそこに寝ていました。
日が暮れると、一番に出る青い星が、森の上へ出てぴかぴか光りました。
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……お星さん お星さん
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ひとつぼしで出ぬもんじゃ
千も万も出るもんじゃ
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遠くの方で男の児《こ》の歌う声がしました。人形は、もしや私を連れに来るのかと、眼《め》をぱっちりあけていましたが、歌の声も遠くへいってしまいました。
「どうなることだろう」
人形はもう泣き出しそうになりました。
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……リイリイリイ……
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近くの草のなかで、鈴虫が鳴きだしました。人形は大喜びで、
「鈴虫さん、あたしをお嬢さんのとこへ連れていって頂戴《ちょうだい》な」
とたのみました。
「おや、お人形さん。あなたおいてけぼりになったの。でも、あたしお嬢さんのお家《うち》を知りませんよ、リイリイリイ」と言ってどこかへ飛んで行きました。
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……クララ クララ……
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川の淵《ふち》で蛙《かえる》がなきました。人形は、また蛙を呼びかけました。
「蛙さん、まだ夜はあけないの」
「おいらは知らないね。お日様が出たらきいて見な。クララクララ」蛙は、つっけんどんにそう言って、ずぼんと川の中へ飛込みました。
人形は泣きながら、さみしい夜の明けるのを待っていました。
やっと夜が明けて、近くでチョキンチョキンと鋏《はさみ》の音がしました。それは牧場の番人が草を刈りに来たのでした。
「おじさん、あたしのお人形を見なかって?」
そう言っているのは、お嬢さんの声だと、人形はおもいました。
「さあ、わしはまだ見ないが」
番人はそう言ってだんだん人形の近くまで刈ってきました。
「はやく刈って頂戴ね。おじさん」
お嬢さんも、人形も気が気ではありません。そのうちに、昨夜《ゆうべ》人形を隠
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