たんだよ」
「三宅坂よ」
「三宅坂だって! 嘘《うそ》を言ったら承知しないよ。さ、どこにいたんだよ、誰《だれ》といたんだよ」
「ひめゆりよ」
「ひめゆり! ?」
熊《くま》さんは、日輪草《ひまわりそう》のことを、ひめゆりと覚えていたので、その通りお内儀《かみ》さんに言いました。それがそもそも事の起りで、熊さんよりも、力の強いお内儀さんは、熊さんを腰の立たないまで擲《なぐ》りつけました。
「草だよ、草だよ」
熊さんがいくら言訳をしても、お内儀さんは、許すことが出来ませんでした。
翌日《あくるひ》は好《い》い天気で、太陽は忘れないで、三宅坂の日輪草にも、光と熱とをおくりました。日輪草は眼《め》をさましましたが、どうしたことか、今日は熊さんがやって来ません。十時になっても、十二時が過ぎても、朝の御馳走《ごちそう》にありつけませんでした。日輪草は、太陽の方へ顔をあげている元気がなくなって、だんだん首をたれて、とうとうその晩のうちに枯れてしまいました。
底本:「童話集 春」小学館文庫、小学館
2004(平成16)年8月1日初版第1刷発行
底本の親本:「童話 春」研究社
1
前へ
次へ
全5ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
竹久 夢二 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング