ませんでした。可愛《かあ》いい芽は一日一日と育ってゆきました。青い丸爪《まるづめ》のような葉が、日光のなかへ手をひろげたのは、それから間もないことでした。風が吹いても、倒れないように、熊さんは、竹の棒をたててやりました。
 だが、それがどんな植物なのか、熊さんにはてんで見当がつきませんでした。円い葉のつぎに三角の葉が出て、やがて茎の端に、触角のある蕾《つぼみ》を持ちはじめました。
「や、おかしな花だぞ、これは、蕾に角が生えてら」
 つぎの日、熊さんが、三回目の水を揚げたポンプのところへやってくるとその草は、素晴らしい黄いろい花を咲かせて、太陽の方へ晴晴《はればれ》と向いているのでした。熊さんは、感心してその見事な花を眺めました。熊さんは、電車道に立っている電車のポイントマンを連れてきて、その花を見せました。
「え、どうです」
「なるほどね」ポイントマンも感心しました。
「だが、なんという花だろうね、車掌さん」熊さんはききました。
「日輪草《ひまわりそう》さ」車掌さんが教えました。
「ほう、日輪草というだね」
「この花は、日盛りに咲いて、太陽が歩く方へついて廻《まわ》るから日輪草って言う
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