の唄に驚いて、親鶏の翼の下に寝ていた黄いろい雛《ひな》も、軒の下の鳩《はと》も、赤い小牛も、牧場の小屋の中へ眠っていた小羊までが眼を覚《さま》しました。それでも太郎の眼は覚めませんでした。
この時、太陽は小山を越えて、春の空に高く輝きました。草に結んだ露は夢からさめ、鈴蘭《すずらん》はいちはやく朝の鐘を鳴《なら》しました。草も木も太陽の方へあたまをあげて、歓《よろこ》びました。太陽はしずしずと森を越え、牧場に光を投げながら、太郎の家《うち》のお庭の方までやって来ました。そして窓のガラスを通して太郎の顔へ美しい光を投げました。すると太郎は、可愛《かあい》い眼をぱっちりと明けました。
「かあちゃん、かあちゃん!」お母様はすぐに太郎を見に来ました。
「坊や、お眼がさめたの。誰が坊やを起してくれたえ?」
お母様がききました。けれど誰も答えるものはありませんでした。それは太郎も知りませんでしたから。
底本:「童話集 春」小学館文庫、小学館
2004(平成16)年8月1日初版第1刷発行
底本の親本:「童話 春」研究社
1926(大正15)年12月
入力:noir
校正:noriko saito
2006年7月2日作成
青空文庫作成ファイル:
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