ら改行天付き、折り返して3字下げ]
猟人「たしかこの辺へ逃込んだがなあ」(独語《ひとりごと》をしながら四辺《あたり》を見廻《みまわ》す)
少年(猟人《かりうど》の注意を自分の方へ向けるようにあせりながら)「おじさん兎の毛は白いんでしょう」
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
猟人「ああ、その白兎、白兎」
少年「耳が長いでしょう、おじさん」
猟人「そうそう耳が長いね」
[#ここから3字下げ]
猟人、銃を杖《つえ》にして話し出す。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
少年「ね、おじさん、兎の尻尾《しっぽ》は短いでしょう」
猟人「短いとも、これんばかりさ」
少年「それから、前脚が短くて、後脚が長いでしょう」
猟人「短くって、長くって」猟人は、自分が何をしているかを思出《おもいだ》して、「坊ちゃん、ぼくはその兎を探しているのだよ」
少年「おじさん、その兎はやっぱり赤い眼《め》を持っているでしょう」
猟人「ぼくは、坊ちゃんの博物の復習《おさらい》をしているんじゃないよ。一体その兎は……」
少年「白兎ですね。おじさん」
猟人「白兎ですよ。何遍それを言えば好《い》いんだ。そんなこと言っているうちに、気の利いた兎は、穴の中へもぐって昼寝をするだろう」独語のように「この子は、よっぽど呑込《のみこみ》のわるい子だな」
少年「なあんだ、おじさんは、その白兎《しろうさぎ》を撃ちにきたの」
猟人「そうさ」
少年「だっておじさんは、いきなり兎を知らないかって言うんだもの、だからぼく、学校の復習《おさらい》をしちゃったのさ」
猟人「眼《め》をぱちくりやっている」
少年「ああ、その兎なの」
猟人「そうさ」
少年「その兎なら、もうよっぽど遠くへ逃げました。あの道の先の、ほら左側に赤松があるでしょう」
猟人「あるある」
[#ここから3字下げ]
少女は猟人《かりうど》の方を見て笑っている。兎も出て来て見ている。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
少年「あすこを左へ曲って、桜の木が見えるでしょう」
猟人「ああ、見えるね」
少年「あの木から、一本、二本、三本、四本、五本、六本、十三本目の桜の下へかくれましたよ」
猟人「いや、どうもありがとう」
[#ここから3字下げ]
猟人はあたふたと、上手へ走ってゆく。
[#ここで字下げ終わ
前へ 次へ
全5ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
竹久 夢二 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング