路之助丈えと染《そ》めぬいた幕《まく》の裏《うら》からあらはれいでヽ赤《あか》い毛布《けつと》をたれて、姫君《ひめぎみ》の死骸《しがい》をば金泥《きんでい》の襖《ふすま》[#ルビの「ふすま」は底本では「うすま」]のうらへと掃《は》いていつてしまつた。
死《し》んだのではない、死《し》んだのではない、あれは芝居《しばゐ》といふものだと母《はヽ》は泪《なみだ》をふいてくれた。
さうして少年《せうねん》のやぶれた心《こヽろ》はつくのはれたけれど、舞台《ぶたい》のうへで姫君《ひめぎみ》のきられたといふことは忘《わす》れられない記臆《きおく》であつた。また赤毛布《あかけつと》の裡《うら》をば、死《し》んだ姫君《ひめぎみ》が歩《ある》いたのも、不可思儀《ふかしぎ》な発見《はつけん》であつた。
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     傀儡師《くわいらいし》




  …………大阪《おほさか》をたちのいても、わたしが姿《すがた》眼《め》に
      たてば、借行輿《かりかご》に日《ひ》をおくり………………
口三味線《くちさみせん》の浄瑠璃《じやうるり》が庭《には》の飛石《とびいし》づたひにちかづいてくるの
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