さし櫛《ぐし》がおちたのかと思《おも》つたら、それは三ヶ月《みかづき》だつた。
黒髪《くろかみ》のかげの根付《ねづけ》の珠《たま》は、空《そら》へとんでいつては青《あを》く光《ひか》つた。
また赤《あか》い簪《かんざし》のふさは、ゆら/\とゆれるたんびに草原《くさはら》へおちては狐扇《きつねあふぎ》の花《はな》に化《ば》けた。
少年《せうねん》の不可思議《ふかしぎ》な夢《ゆめ》は、白《しろ》い路《みち》をはてしもなく辿《たど》つた。
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     死《し》



花道《はなみち》のうへにかざしたつくり桜《ざくら》の間《あひだ》から、涙《なみだ》ぐむだカンテラが数《かず》しれずかヾやいてゐた。はやしがすむのをきっかけに、あの世《よ》からひヾいてくるかとおもはれるやうなわびしい釣鐘《つりがね》の音《ね》がきこえる。
金《きん》の小鳥《ことり》のやうないたいけな姫君《ひめぎみ》は、百日鬘《ひやくにちかつら》の山賊《さんぞく》がふりかざした刃《やいば》の下《した》に手《て》をあはせて、絶《た》えいる声《こえ》にこの世《よ》の暇乞《いとまごひ》をするのであつた。
「南《な》 無
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