《む》 阿《あ》 弥《み》 陀《だ》 仏《ぶつ》」
きらりと光《ひか》る金属《きんぞく》のもとに、黒髪《くろかみ》うつくしい襟足《えりあし》ががっくりとまへにうちのめつた。血汐《ちしほ》のしたヽる生首《なまくび》をひっさげた山賊《さんぞく》は、黒《くろ》い口《くち》をゆがめてから/\からと打笑《うちわら》つた。
あヽお姫様《ひいさま》は斬《き》られたのか。
それは少年《せうねん》のためには「死《し》の最初《さいしよ》の発見《はつけん》」であつた。
もう姫君《ひめぎみ》は死《し》んだのだ、死《し》んでしまへば、もうこの世《よ》で花《はな》も、鳥《とり》も、歌《うた》も、再《ふたヽ》びきくこともみることもできないのだ。
涙《なみだ》は少年《せうねん》の胸《むね》をこみあげこみあげ頬《ほ》をながれた。
「死顔《しにがほ》」も「黒《くろ》き笑《わらひ》も」泪《なみだ》にとけて、カンテラの光《ひかり》のなかへぎらぎらときえていつた、舞台《ぶたい》も桟敷《さじき》も金色《こんじき》の波《なみ》のなかにたヾよふた。
その時《とき》、黒装束《くろせうぞく》に覆面《ふくめん》した怪物《くわいぶつ》が澤村路之助丈えと染《そ》めぬいた幕《まく》の裏《うら》からあらはれいでヽ赤《あか》い毛布《けつと》をたれて、姫君《ひめぎみ》の死骸《しがい》をば金泥《きんでい》の襖《ふすま》[#ルビの「ふすま」は底本では「うすま」]のうらへと掃《は》いていつてしまつた。
死《し》んだのではない、死《し》んだのではない、あれは芝居《しばゐ》といふものだと母《はヽ》は泪《なみだ》をふいてくれた。
さうして少年《せうねん》のやぶれた心《こヽろ》はつくのはれたけれど、舞台《ぶたい》のうへで姫君《ひめぎみ》のきられたといふことは忘《わす》れられない記臆《きおく》であつた。また赤毛布《あかけつと》の裡《うら》をば、死《し》んだ姫君《ひめぎみ》が歩《ある》いたのも、不可思儀《ふかしぎ》な発見《はつけん》であつた。
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傀儡師《くわいらいし》
…………大阪《おほさか》をたちのいても、わたしが姿《すがた》眼《め》に
たてば、借行輿《かりかご》に日《ひ》をおくり………………
口三味線《くちさみせん》の浄瑠璃《じやうるり》が庭《には》の飛石《とびいし》づたひにちかづいてくるの
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