最初の悲哀
竹久夢二
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)街子《まちこ》の
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街子《まちこ》の父親は、貧しい町絵師でありました。五月幟《ごがつのぼり》の下絵や、稲荷《いなり》様の行燈《あんどん》や、ビラ絵を描《か》いて、生活をしているのでありました。しかし、街子はたいそう幸福でした。というのは、父親は街子を、このうえもなく愛していたし、街子もまた父親を世の中で一番えらくて好《い》い人だと思っていました。母親が早くなくなったので、街子は小学校を卒業すると、家《うち》にいて、父親のため朝夕の食べものをつくったり、洗濯をしたり、夜おそく父親が仕事をするときに、熱いお茶を入れたりしました。家の外を風が吹くように、貧しいことなどは、ちっとも苦労ではありませんでした。
父親も街子も、ほんとに幸福《しあわせ》そうでありました。
何よりも好《よ》いことに、街子は父親の仕事を好きなばかりでなく、父親の技倆《ぎりょう》を尊敬さえしていたことです。
ところが街子にとって、容易ならぬ悲《かなし》みが一つ出来たのであります。それは稲荷様の祭の日のことでありました。毎年の
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