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太郎「だてふはいつも立《た》つてばかりゐますが、夜《よる》ねる時《とき》でも立《たつ》てますか」
動物園のおぢさん「夜《よる》はやつぱりしやがんで眠《ねむ》ります」
太郎「象《ざう》は立《た》つて眠《ね》るんでせう」
おぢさん「い※[#二の字点、1−2−22]へ象《ざう》もすわつて寝《ね》ます」
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かば
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太郎「おぢさん河馬《かば》は汚《きたな》いね※[#「江」のくずし字、コマ23−右−1]」
おぢさん「なぜさ」
太郎「だつて皮《かは》の穴《あな》からなんだか赤《あか》い汁《しる》が出《で》るんだもの」
おぢさん「でもあの汁《しる》がすきな鳥《とり》があるとさ。その鳥《とり》が来《く》ると河馬《かば》はじつとして、あの毛穴《けあな》の中《なか》の黴菌《ばいきん》を鳥《とり》がとつてくれるのをまつてゐるんだつてさ。それがその鳥《とり》の食物《しよくもつ》なのさ」
太郎「汚《きたな》い鳥《とり》だなあ、なんていふ名《な》」
おぢさん「知《し》らない」
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キバタン
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太郎「おまへは何処《どこ》から来《き》たの」
キバタン「印度《いんど》から来《き》ました」
太郎「印度《いんど》は黒坊《くろんぼ》ばかりゐるのかと思《おも》つたら、おまへのやうな白《しろ》い鳥《とり》もゐるのかい」
キバタン「なあに、昔《むかし》は黒《くろ》かつたんですが、あんまり太陽《たいやう》の光《ひかり》がきついもんですからはげてしまつたんです」
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とら
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動物園のおぢさん「ある時《とき》、白《しろ》い夏服《なつふく》を着《き》た巡査《じゆんさ》が、剣《けん》か何《なん》かでこの虎《とら》をおどかしたことがありました。それからといふもの白《しろ》い服《ふく》を着《き》た巡査《じゆんさ》が来《く》ると怒《おこ》ります」
太郎「おぢさん、虎《とら》はよく覚《おぼ》えてゐますね」
おぢさん「一度《いちど》そんなことがあると決《けつ》して忘《わす》れません」
太郎「虎《とら》が客《きやく》に向《むか》つて放尿《ほうねう》してもおまはりさんは叱《しか》らないんですか」
おぢさん「虎《とら》がおまはりさんを叱《しか》ります」
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はくてう
驚《おどろ》きやすい白鳥《はくてう》よ。
何《なに》をそんなにおどろいて鳴《な》くのだ。
青《あほ》い澄《す》んだ空《そら》には何《なに》[#「何」は底本では「河」]もないではないか。
白《しろ》く淀《よど》んだ沼《ぬま》には何《なに》もゐはしないではないか。
いえ/\。青《あほ》い空《そら》を
あれ、あんな化物雲《ばけものくも》がとびます。
深《ふか》い水《みづ》の底《そこ》に、
あれ、あんな虫《むし》が匐《は》ひまわつてゐます。
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くま
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太郎「おぢさん熊《くま》が手《て》を合《あは》せて拝《おが》んでるよ」
おぢさん「は※[#二の字点、1−2−22]あ、可憐《かあい》いものだなあ。動物園《どうぶつゑん》の中《なか》でも夜《よる》なんか熊《くま》が一番《いちばん》よく眠《ねむ》るつてね、嚊声《いびきごゑ》が不忍池《しのばずのいけ》まで聞《きこ》へるつてさ」[#「てさ」」は底本では「てさ」]
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ペリカン
[#右ページにペリカンの絵と名前があり、本文はなし]
底本:「コドモのスケッチ帖 動物園にて」洛陽堂
1912(明治45)年2月24日発行
※近代デジタルライブラリー(http://kindai.ndl.go.jp/)で公開されている当該書籍画像に基づいて、作業しました。
※この作品は、最後の「ペリカン」を除いて「見開き右のページに本文、左のページに動物の絵と名前」という構成になっています。このテキストでは左側に書かれている動物名を見出しとしました。
※歴史的仮名遣いから外れた表記、仮名表記の不統一も、底本通り入力しました。
※「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の旧字を新字にをあらためました。
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:土屋隆
校正:田中敬三
2005年10月1日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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