るとき。
雪はしんしんふりしきる。
黄《きい》な袋《ふくろ》の石版《いしずり》の
異形《いぎやう》な虫《むし》のわざはひか。
雪はしんしんふりしきる。
銀《ぎん》ぎらぎんのセメン円《ゑん》
とのもは雪のつむけはひ。
[#改ページ]
雀 踊
青い眉《まゆ》したたをやめが
金《きん》の墨絵《すみゑ》の扇《あふぎ》にて
そつとまねけばついとくる
はらりとひらけばぱつととぶ。
雀《すゞめ》おどりのおもしろさ
やんれやれやれやせうめ
京《きやう》の町のやせうめ
うつるるものはみせうめ
あれあれあれとみるほどに
奴姿《やつこすがた》の小雀《こすゞめ》は
山《やま》のあなたへとびさりぬ。
[#改丁、挿し絵入る、37]
[#改丁]
わたり鳥
日本《にほん》の春のこひしさに
シイオホスクの海角《みさき》より
はるばる波をわたり鳥《どり》。
庄屋《しやうや》の軒《のき》に巣《す》をかけて
雛《ひゝな》を六|羽《ぱ》うんだれど
三|羽《ば》の雛《ひな》は死《しに》ました。
のこる三|羽《ば》は※[#「※」は「木へん+弟の下半分のような字」、第3水準1−85−57、40−1]《かき》の葉《は》の
毛虫《けむし》がすきでたべました。
やんがて※[#「※」は3行上の「かき」と同じ字、第3水準1−85−57、40−4]《かき》のうれるころ
日本《にほん》の島《しま》をあとにして
まだみもしらぬ故郷《ふるさと》へ
親子《おやこ》もろともいにました。
[#改ページ]
納戸の記憶
船《ふね》は酒船《さかぶね》父《ちち》の船《ふね》
三十五|反《たん》の帆《ほ》をまくや
玄海灘《げんかいなだ》の夏《なつ》の雲《くも》。
君《きみ》は馬関《ばくわん》の唄《うた》うたひ
髪《かみ》にさしたる青玉《エメラルド》
あだな南《みなみ》のニグレスが
こころづくしの貢物《みつぎもの》。
風《かぜ》のたよりをまちわびて
行燈《あんど》のかげのものおもひ
鬢《びん》のほつれをかきあぐる
銀《ぎん》のかざしのかなしさか
母《はゝ》の腕《かひな》のさみしさか。
[#改丁、挿し絵入る、43]
[#改丁]
おしのび
昔《むかし》アゼンに王《わう》ありき。
野《の》にさく花《はな》のめでたさに
ひとり田舎《ゐなか》へゆきけるが
にわかに雨《あめ》のふりいでて
王《わう》は臍《へそ》までうまりける。
それより王《わう》はわすれても
二|度《ど》と田舎《ゐなか》へゆかざりき。
[#改丁、左寄せ]
断 章
[#改ページ]
1
ドンタクがきたとてなんになろ
子供は芝居《しばゐ》へゆくでなし
馬にのろにも馬はなし
しんからこの世《よ》がつまらない。
2
おうちに屋根《やね》がなかつたら
いつも月夜《つきよ》でうれしかろ。
あの門番《もんばん》が死《し》んだなら
あの柿《かき》とつてたべよもの。
世界《せかい》に時計《とけい》がなかつたら
さみしい夜《よる》はこまいもの。
3
もしも地球《ちきう》が金平糖《こんぺいたう》で
海《うみ》がインクで山《やま》の木《き》が
飴《あめ》と香桂《につけ》であつたなら
なにをのんだらいいだろう。
学校《がくかう》の先生《せんせい》もしらなんだ
国王様《こくわうさま》もしらなんだ。
4
この紅茸《べにたけ》のうつくしさ。
小供《こども》がたべて毒《どく》なもの
なぜ神様《かみさま》はつくつたろ。
毒《どく》なものならなんでまあ
こんなにきれいにつくつたろ。
[#改丁、挿し絵入る、51]
[#改丁]
5
ままごとするのもよいけれど
いつでもわたしは子供役。
子供が子供になつたとて
なんのおかしいことがあろ。
6
どんなにおなかがひもぢうても
日本《にほん》の子供はなきませぬ。
ないてゐるのは涙《なみだ》です。
7
お墓《はか》のうへに雨がふる。
あめあめふるな雨ふらば
五|重《ぢゆう》の塔《たふ》に巣《す》をかけた
かわい小鳥《こどり》がぬれよもの。
松の梢《こずゑ》を風《かぜ》がふく。
かぜかぜふくな風ふかば
けふ巣《す》だちした鳶《とび》の子《こ》が
路《みち》をわすれてなかうもの。
8
ひろい空からふる雨は
森のうへにも牧場《まきば》にも
びつくり草《さう》にも小鳥《こどり》にも
みんなのうへにふるけれど
子供のうへにはふりませぬ。
それは子供の母親が
シヤツポをきせてくれるから。
9
枇杷《びは》のたねをばのみこんだ。
おなかのなかへ枇杷の木が
はえるときいてなきながら
枇杷のなるのをまつてたが
いつまでたつてもはえなんだ。
10
めんない千鳥《ちどり》の日もくれて
[#改丁、挿し絵入る、57]
[#改丁]
おぼろな春のうすあかり
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