でうまりける。
それより王《わう》はわすれても
二|度《ど》と田舎《ゐなか》へゆかざりき。
[#改丁、左寄せ]
  断 章
[#改ページ]

   1
ドンタクがきたとてなんになろ
子供は芝居《しばゐ》へゆくでなし
馬にのろにも馬はなし
しんからこの世《よ》がつまらない。

   2
おうちに屋根《やね》がなかつたら
いつも月夜《つきよ》でうれしかろ。
あの門番《もんばん》が死《し》んだなら
あの柿《かき》とつてたべよもの。
世界《せかい》に時計《とけい》がなかつたら
さみしい夜《よる》はこまいもの。

   3
もしも地球《ちきう》が金平糖《こんぺいたう》で
海《うみ》がインクで山《やま》の木《き》が
飴《あめ》と香桂《につけ》であつたなら
なにをのんだらいいだろう。
学校《がくかう》の先生《せんせい》もしらなんだ
国王様《こくわうさま》もしらなんだ。

   4
この紅茸《べにたけ》のうつくしさ。
小供《こども》がたべて毒《どく》なもの
なぜ神様《かみさま》はつくつたろ。
毒《どく》なものならなんでまあ
こんなにきれいにつくつたろ。
[#改丁、挿し絵入る、51]
[#改丁]

   5
ままごとするのもよいけれど
いつでもわたしは子供役。
子供が子供になつたとて
なんのおかしいことがあろ。

   6
どんなにおなかがひもぢうても
日本《にほん》の子供はなきませぬ。
ないてゐるのは涙《なみだ》です。

   7
お墓《はか》のうへに雨がふる。
あめあめふるな雨ふらば
五|重《ぢゆう》の塔《たふ》に巣《す》をかけた
かわい小鳥《こどり》がぬれよもの。
松の梢《こずゑ》を風《かぜ》がふく。
かぜかぜふくな風ふかば
けふ巣《す》だちした鳶《とび》の子《こ》が
路《みち》をわすれてなかうもの。

   8
ひろい空からふる雨は
森のうへにも牧場《まきば》にも
びつくり草《さう》にも小鳥《こどり》にも
みんなのうへにふるけれど
子供のうへにはふりませぬ。
それは子供の母親が
シヤツポをきせてくれるから。

   9
枇杷《びは》のたねをばのみこんだ。
おなかのなかへ枇杷の木が
はえるときいてなきながら
枇杷のなるのをまつてたが
いつまでたつてもはえなんだ。

   10
めんない千鳥《ちどり》の日もくれて
[#改丁、挿し絵入る、57]
[#改丁]
おぼろな春のうすあかり

前へ 次へ
全12ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
竹久 夢二 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング