ちよつと嗅いでおいて引き退つたわ。それからさ 〔ma《マ》 che`re《シェール》〕(いとしいかた)、何でも一週間ほど過ぎてから、このお父さまつたら、大層な御機嫌で歸つていらしたことがあつたの。そして午前ちゆうはひつきりなしに、禮服をつけた方たちがあとからあとからとお越しになつては、何かお祝ひを述べていらしたやうだわ。お食事のあひだも、いろんな逸話なんかなすつてさ、これまでにつひぞお見受けしたこともないくらゐそれはそれは上々の御機嫌だつたわ。お食事の後で、あたしを御自分の頸のところへお抱きあげになつて、※[#始め二重括弧、1−2−54]そうら、メッヂイ、これを御覽。※[#終り二重括弧、1−2−55]つて仰つしやるぢやないの。見れば、何だかリボンみたいなものなの。あたし嗅いでみたけれど、ちつとも好い匂ひなんかしなかつたわ。しまひに、そつと舐めて見たら、ちよつぴり鹽からかつたけれど。』
[#ここで字下げ終わり]
ふむ! この狆ころめ、どうやら少し圖に乘りくさつたな……笞でぶん毆られなきやよいが! それはさうと、ぢやあ、あの局長はなかなかの野心家なんだな。こいつはよく憶えておかにやあなら
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