から――
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『めいめいの思想だの、感情だの、印象だのをお互ひに語りあふつてことは、世の中で何より幸福なことの一つだと、あたし思ふわ。』
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 ふむ………これは獨逸語から飜譯した、或る論文の中から引用した意見だな。表題はいま憶えてゐないけれど。
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『あたし、これ經驗から言つてるのよ、尤も世の中なんて言つても、邸の門より外へは出たこともないんだけれど。だつて、あたしは先づまづ幸福な身の上といへるでしよ? お父樣からソフィーつて呼ばれていらつしやる、うちのお孃さんが、それはそれは、あたしを夢中で可愛がつて下さるのよ。』
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 うへつ、畜生!……いや、何でもない、何でもない! 内證々々と!
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『お父さまだつて、よく頭を撫でたりなんかして可愛がつて下さるわ。あたし、お紅茶だつて珈琲だつて、クリームを入れたのを戴くのよ。あ、それからね、〔ma《マ》 che`re《シェール》〕(いとしいかた)、あたし、あの大きなしやぶりからしの骨なんか、ちつとも美味《おい》しいなんて思へないのに、うちのポル
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