の一幕については、祖父はけろりと忘れてしまつて、もし誰かがその話を持ち出すやうなことがあつても、てんでそんなことには関係がないやうな顔をして、いつかな、口をあかなかつたので、その一部始終を話させるのは並大抵のことではなかつた。それはさて、そのことのあつた後、さつそく、家を祓ひ潔めなかつた神罰でもあらうか、毎年きまつて、その同じころになると、不思議なことに、つれあひが自然《ひとりで》に踊りだすのぢやつた。何をしてゐても、むずむずと脚が勝手に動き出して、どうしても、すぐさま、しやがみ踊りをおつ始めずにはゐられないのぢやつた。
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青紙幣《シーニッツア》 五|留《ルーブリ》紙幣の異名。
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[#地から2字上げ]――一八三一年――
底本:「ディカーニカ近郷夜話 前篇」岩波文庫、岩波書店
1937(昭和12)年7月30日第1刷発行
1994(平成6)年10月6日第8刷発行
※「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の表記をあらためました。
※底本の中扉には「ディカーニカ近郷夜
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