をいただきながら、これしきのことを御存じないとは驚ろいた――妖女《ウェーヂマ》を焼くには普通《ただ》の火では駄目だつてことをさ! 憑魔《つきもの》を焼くには是非とも、煙管《きせる》の火を使はにやあなりませんやね、ちよつくらお待ちなせえ、万事はこのわつしが引受けましたよ!」
 さう言つて、煙管から煙草の燠《おき》を藁束のなかへはたき落すと共に、フウフウ吹きはじめた。切羽つまつた哀れな村長の義妹は、やつとその時、元気を取り戻した。彼女は声を振りしぼつて哀訴したり、その誤つた考へを棄てるやうにと歎願したりしはじめた。
「まあ待ちなされ、皆の衆! 何も、無駄な罪科《つみ》を重ねるこたあねえでがせう? ひよつとしたら、これあ悪魔ではないかも知れねえのに!」と、助役が言つた。「もし彼奴が、といふのはこの中に坐つとる奴のことですよ、そやつが十字を切ることを承知しさへすれば、それが悪魔でない明白な証拠なんだから。」
 この提案は取りあげられた。
「おらに憑《つ》くでねえぞ、悪魔!」さう、助役は戸の隙間に口をあてて言つた。「もし、その場から動かなかつたら、戸を開けてやらう。」
 戸が開けられた。
「十字
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