ますと、忌々しい暴れ者どもめが、卑猥きはまる唄をうたつたり、ガタガタ戸を叩いて、目を醒まさしてしまひをりましたんでな! こつぴどく叱りつけてやらうと思ひましたが、寛袴《シャロワールイ》をはいたり胴着をきたりしてゐるうちに、雲を霞と逃げうせてしまひをりました。それでも、首謀者らしい奴だけは取り逃がしませんでしたよ。今、あの科人《とがにん》を拘留する小屋の中で大声を張りあげて唄をうたつてをりますがね。どうかして彼奴《きやつ》の正体を見届けて呉れようと思つたのですが、亡者の磔《はりつけ》につかふ釘を鍛《う》つ悪魔そつくりに、顔ぢゆうを煤で塗りたくつてをりますのでして。」
「で、そいつはどんな服装《なり》をしてゐるね、助役さん?」
「黒い皮外套《トゥループ》を裏がへしに著てうせるのですよ、村長さん。」
「それあ、ほんとに間違ひのない話かね、助役さん? もしその同じ張本人が、わしがとこの納屋に坐つてをるとしたらどんなもので?」
「いんにや、村長さん! さう言つちやあなんですが、間違つてゐなさるのは、あなたの方ですて。」
「灯《ひ》を持つて来い! ぢやあ一つ首実検といふことにしよう!」
 灯りが取
前へ 次へ
全74ページ中46ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
平井 肇 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング