昼間は至つて穏かで、さらさら幽霊の気配などはありましねえのに、あたりが薄暗くなりかけるてえと、どうでがせう。屋の棟を見ると、ちやんと畜生め、煙突に跨がつてゐくさるんで。」
「団子をくはへて?」
「ええ、団子をくはへてね。」
「変だねえ! わしもそんなやうな話を聞いたつけが、なんでも、死んだ女が……。」
 かう言ひかけて村長は口をつぐんだ。窓の下でがやがやいふ声がして、踊りの足拍子が聞えだしたのである。はじめに低くバンドゥーラの絃の音がすると、それに合はせて一人が歌ひだした。絃の音がひときは高くなると同時に、幾人かの声で合唱をやりはじめた――歌声は旋風のやうにどつと沸きあがつた。

[#ここから3字下げ]
みんな、どうだい、聞いたかい?
おいらの頭はしつかりしてるが
めつかち村長のどたまの箍は
えらくゆるんでグラグラしてるぞ。
桶屋、はめろや鋼鉄《はがね》の箍を!
鋼鉄《はがね》の箍はめ、ポンと打《ぶ》て村長を!
桶屋ぶてぶて、村長のどたまを
棒でぶてぶて、鞭で打て!
おいらの村長は白髪でめつかち、
悪魔におとらぬ老爺《ぢぢい》の癖に、
阿呆め、浮気で甚助野郎、
若い娘みりや、あと追ひま
前へ 次へ
全74ページ中41ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
平井 肇 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング