聖母マリヤの御像のために*縁飾《オクラード》を運んで徒歩《かち》で辿りついたとのことぢやが、その縁飾《オクラード》には目もくらむばかりに輝やかしい宝石が鏤ばめてあつたといふことぢや。
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縁飾《オクラード》 聖像の顔や手以外の部分を蔽ふ装飾。
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まだこれだけでお終ひではない。化生の物がペトゥローを拉し去つた、その同じ日に、ひよつくりバサウリュークが姿を現はしたのぢや。誰もかもこいつの姿を見ると逃げ散つたといふ。村人は、こやつこそ財宝を掠めるために人間の姿に化けた悪魔で、汚れた手に財宝を掴むことが出来ん時には、若者をかどはかしてゆく、張本人に違ひないと気がついたのぢや。その年、村人は残らず、土小舎を引きあげて本村へ居を移してしまつたが、しかし、其処でもこの呪はしいバサウリュークのために安息は得られなかつたさうぢや。亡くなつた祖父の叔母がよく談したことぢやが、彼は叔母がオポシュニャンスカヤ街道の、以前の居酒屋を閉ぢたことで、誰に対してよりもひどく彼女に恨みを抱いて、極力その復讐をしようと企らみをつたのぢや。或る時のこと、村の
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