うつつのやうにばつたり倒れてしまふ。それから又しても囘想に耽りはじめて、再び狂暴になり、更に懊悩するのだつた。何といふ怖ろしい天罰だらう? ピドールカはまるで生きた心地もしなかつた。最初のほどはひとり家にゐるのが怖ろしかつたが、しまひには、可哀さうに、さうした悲しみにも馴れて来た。だが以前のピドールカの面影は跡形もなくなつた。頬のいろざしも微笑も影をひそめて、容色は衰ろへ、影は薄れて、美しい眼も泣き枯らしてしまつた。一度、さる人が彼女を憐れに思つて、熊ヶ谷に棲んでゐる巫女《みこ》のもとへ行つてみたらとすすめた。その巫女はこの世にある限りの、どんな病気でもよく癒《なほ》すといふので、大変な評判だつた。そこで彼女はいよいよそれを最後の手段にもと、思ひきつて出かけて行つて、いろいろと言葉をつくして、その老婆を伴つて家へ帰つて来た。それは折しもイワン・クパーラの前夜の宵のことだつた。ペトゥローは正体もなく腰掛のうへにぶつ倒れてゐたので、その新来の客にはまるで気がつかなかつた。ところが、やがて少しづつ頭をもたげると、相手の顔をまじまじと穴のあくほど眺めた。と、不意に、まるで断頭台のうへに立たされ
前へ
次へ
全46ページ中39ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
平井 肇 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング