た。「下着《プラフタ》だの、いろんな布地だのをしこたま買ひこむつもりで駈け出して行きをつただから、彼女《あれ》の戻つて来ねえうちに、何もかも鳧をつけてしまはにやなんねえだよ!」
パラースカは家の閾を跨ぐがはやいか、自分のからだが白い長上衣《スヰートカ》を著た若者の腕に抱きすくめられたのを感じた。彼はおほぜいの人だかりといつしよに、往来《おもて》で彼女を待ち受けてゐたのであつた。
「主よ、祝福を垂れ給へ!」と、チェレ※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]ークが二人の頭の上に手を置いて言つた。「この二人が、とも白髪の末まで、幾ひさしく添ひとげまするやうに!」
この時、群衆の中にざわめきが起つた。
「どうしてどうして、滅多にそんなことをさせて堪るもんか!」かう、ソローピイの配偶者《つれあひ》が躍起になつて喚きたてたが、群らがる人々がげらげら笑ひながら、後ろへ後ろへと彼女を押し戻した。
「逆せあがるでねえだよ、逆せあがるでねえだよ! おつかあ!」とチェレ※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]ークは、頑丈なジプシイが二人がかりで女房の両腕を押へてゐるのを見て、いやに落ちつき払つて言ふのだつた
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