《きらびやか》さ! 鳩羽いろをした果しない蒼空が、エロチックな穹窿となつて大地の上に身をかがめ、眼に見えぬ腕に佳人を抱きしめながら、うつつをぬかしてまどろむかとも思はれる、静けさと酷熱の中に燃える日盛りの、この堪へがたい暑さ! 空には散り雲ひとつなく、野づらには人声ひとつ聞えず、万象はさながら寂滅したかの如く、ただ頭上たかく天際にをののく雲雀の唄のみが、銀鈴を振るやうに大気のきざはしを通つて、愛慾に溺れた大地へ伝はり流れるのと、稀れに鴎の叫びか、甲高い鶉の鳴き声が、曠野にこだまするばかり。※[#「木+解」、第3水準1−86−22]の木立はものうげに、無心に、まるで当所《あてど》なきさすらひ人のやうに、高く雲間に聳えたち、まぶしい陽の光りが絵のやうな青葉のかたまりを赫つと炎え立たせると、その下蔭の葉面《はづら》には闇夜のやうな暗影《かげ》が落ちて、ただ強い風のまにまに黄金いろの斑紋がぱらぱらと撒りかかる。恰好のいい向日葵《ひまはり》のいつぱい咲き乱れた菜園の上には、翠玉石《エメラルド》いろ、黄玉石《トッパーズ》いろ、青玉石《サファイヤ》いろ等、色さまざまな、微細な羽虫が翔び交ひ、野づらに
前へ
次へ
全71ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
平井 肇 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング