はどんなこともあり得る……。だが、こればかりは、さう一概に片づけてしまふことは出来ませぬ。化生《けしやう》のものが一旦人を誑らかさうと見込んだからには、どこまでも誑らかさずには措かぬ。それあもう、金輪際誑らかさずに措くものぢやない!……さて、それに就いて、こんな話がある。私どもは兄弟、四人だつたが、私はその頃まだ、からたわいもない、やつと十一か……いや、十一にはなつてゐなかつたらうて。今もまざまざと憶えてゐる。私が四つん這ひになつて駈け出して、犬の真似をして吠えた。すると親爺が首を振りながら、私を呶鳴りつけたものだ。※[#始め二重括弧、1−2−54]こりや、フォマ、フォマつたら! もう嫁を貰つてもええ齢《とし》をして、お主はまるで驢馬の仔みてえな、阿房な真似をさらすだ!※[#終わり二重括弧、1−2−55]
 祖父もまだその頃は健在で――ああ、どうか、今頃は、あの世で楽にしやつくりをしてござるやうに――しやんしやんしてをつた。さうさう、何でも、ある時のこと……。それはさて、何のためにこんな話をするのだらう? もうまる一時間も煖炉《ペチカ》の中を掻き立てて、煙草の火を探してゐる人があるかと
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