の孔に栓をする習慣になりましてね。後で気がついたんですが、あの忌々しい大露西亜人どもは、あぶら虫の入つた玉菜汁《シチイ》さへ食ふんですよ。実にどうも、その時の気持といつたら、お話にも何にもなりませんでしたよ。耳の中がムヅムヅと擽つたくつて擽つたくつて……いやはや、癇癪玉が破裂しました! だが、私どもの村の、何でもないただの、さる老婆がすつかり癒して呉れましたよ。それがどうして癒したとお思ひになります? ほんの呪禁《まじなひ》ひと言ですよ。医者どものことを、どうお考へになりますか、あなた? 私の考へでは、彼奴らはただもう、我れ我れをごまかしたり、愚弄したりしをるだけなんで。何でもない老婆の方が、あんな医者どもよりは、二十倍も心得がありますよ。」
「いやまつたく、あなたのお言葉は至極御尤もです。どうかすると、その、実に……。」茲でイワン・フョードロ※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]ッチは、続けて言ふべき適当な言葉が見出されないもののやうに口を噤んでしまつた。序でに、彼が概して口の軽い方ではなかつたことを申し添へておく必要がある。恐らくそれは例の弱気から来てゐるのだらう、が、或は又、もつ
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