ーロ※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]ッチ何某《なにがし》か!……※[#終わり二重括弧、1−2−55]こんな風にその官吏は独りでぼんやり繰返すのだ。※[#始め二重括弧、1−2−54]ああ! 此処に俺れも出てをるわい! ふうむ!……※[#終わり二重括弧、1−2−55]かうして次ぎにも亦、再び同じ感歎詞を以つて、それを読み返すのである。
 二週間の旅程を経て、イワン・フョードロ※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]ッチは、ガデャーチの手前百露里足らずの地点にある一部落へ到着した。それは金曜日だつた。彼が猶太人とともに幌馬車で旅舎へ乗りつけた時には、もうとうに日は沈んでゐた。
 その旅宿は、田舎の小さい村々に設けられてゐる他の旅宿と何ら異るところがなかつた。そこではきまつて、旅客に、駅馬か何ぞのやうに、乾草と燕麦とをひどく熱心に饗応《すす》めるけれど、もし、旅客があたりまへに、十人並の朝餐が摂りたかつたなら、彼は厭でも応でも食慾を次ぎの機会まで我慢するより他はなかつた。さういふことをよく承知してゐたから、イワン・フョードロ※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]ッチは前以つて、二|連《つな
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