てるのは?※[#終わり二重括弧、1−2−55]と、イワン・フョードロ※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]ッチが情けない声で訴へた。※[#始め二重括弧、1−2−54]あたしよ、あなたの妻よ、あなたは釣鐘だから、釣りあげるのよ!※[#終わり二重括弧、1−2−55]――※[#始め二重括弧、1−2−54]違ふよ、俺は釣鐘ぢやないよ、俺はイワン・フョードロ※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]ッチだよ!※[#終わり二重括弧、1−2−55]と、彼が叫んだ。※[#始め二重括弧、1−2−54]いや、君は釣鐘だよ。※[#終わり二重括弧、1−2−55]と、P××歩兵聯隊の聯隊長が、傍をとほりながら言つた。すると今度は不意に、妻といふものが全く人間ではなく、一種の毛織物になつてゐるのだ。彼はマギリョーフ市の或る商店へやつて行く。すると、※[#始め二重括弧、1−2−54]どういふ布地《きれぢ》が御入用でございますか?※[#終わり二重括弧、1−2−55]と、商人が訊ねるのだ。※[#始め二重括弧、1−2−54]妻をお持ちなさいませ、近頃、これが最新流行の織物でございますよ! 素晴らしく上等の布地《きれぢ》でございまして、皆さまがこれでフロックコートをお拵らへになりますので。※[#終わり二重括弧、1−2−55]商人が尺を計つて、妻を断つ。イワン・フョードロ※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]ッチはそれを、小腋に抱へて猶太人の裁縫師の店へ行く。※[#始め二重括弧、1−2−54]これあ駄目です。※[#終わり二重括弧、1−2−55]と、猶太人が言ふのだ。※[#始め二重括弧、1−2−54]これはくだらない布地《きれぢ》ですよ! こんな品でフロックなど拵らへる者はありませんよ……。※[#終わり二重括弧、1−2−55]
恐怖のあまり、正気を失つたやうになつて、イワン・フョードロ※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]ッチは夢から醒めた。冷汗がタラタラと流れた。
朝になつて起きあがるなり、彼は占ひ本を開けて見た。その巻末には、珍らしく行き届いた書肆《ほんや》の親切で、簡単な夢占ひが附録につけてあつた。しかしその中にも、いつかう、さうした辻褄の合はぬ夢に該当するものは見当らなかつた。
それはさて、一方、叔母さんの頭の中には、全く新規な計画が成熟しつつあつた。それは次ぎの章を見てのお楽しみ。
[#地から2字上げ]――一八三二年――
底本:「ディカーニカ近郷夜話 後篇」岩波文庫、岩波書店
1937(昭和12)年9月15日第1刷発行
1994(平成6)年10月6日第7刷発行
※「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の表記をあらためました。
※底本の中扉には「ディカーニカ近郷夜話 後篇」の表記の左下に「蜜蜂飼ルードゥイ・パニコー著はすところの物語集」と小書きされています。
※「*」は訳注記号です。底本では、直後の文字の右横に、ルビのように付いています。
※「糸」と「絲」は新旧関係にあるので「糸」に書き替えるべきですが、底本で混在していましたので底本通りにしました。
入力:oterudon
校正:伊藤時也
2009年8月6日作成
青空文庫作成ファイル:
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