た眼を袖で拭きながら、肩を窄《すぼ》めた。聞けば彼は、亡きブルリバーシュの戦友で、二人は共にクリミヤ人や土耳古人と戦つたとのこと。ダニーロがそんな果ない最期を遂げようとは夢にも思はなかつたといつて残念がるのだ。客はなほその他、さまざまなことを物語つてから、カテリーナに会ひたいと言ひ出した。
 カテリーナは初めのうち、その客のいふことを少しも耳に入れなかつたが、しまひには分別あり気に、客の話に聴き入つた。彼は、ダニーロと兄弟同様に暮したことや、一度などはクリミヤ人に追はれて、叢林《くさむら》の中へ二人で隠れてゐたことがあるなどと語つた……。カテリーナは、ただじつと聴き耳を立てながら、その男から眼を離さなかつた。
※[#始め二重括弧、1−2−54]奥さんは正気に返つたぞ!※[#終わり二重括弧、1−2−55]と、彼女の顔を見ながら、郎党どもは心の中に思つた。※[#始め二重括弧、1−2−54]あの客人が奥さんを癒して呉れるに違ひない! 奥さんは、もうすつかり正気のやうに聴き入つてゐるではないか!※[#終わり二重括弧、1−2−55]
 そのうちに客は、嘗てダニーロが打ち明け話をした序でに彼に向つ
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