一つ俺の配下の哥薩克で、ほんの心持だけでも、これに関係してをると分つたなら……俺はそ奴にどんな刑罰を加へてやつたらよいか、考へ出すことも出来ぬくらゐだ!」
「もしも、それが、あたしだつたら?……」と、うつかり口を辷らしたカテリーナは、びつくりして口を覆つた。
「万一、お前がそんなことを企らんだのなら、もはやお前は俺の妻ではないぞ。俺はお前を袋の中へとぢこめてドニェープルの真只中《まつただなか》へ投げこんでしまふのだ!……」
カテリーナは、呼吸《いき》の根も止まり、頭髪《かみのけ》がそぞけだつやうに感じた。
八
国境の路にある酒場へ波蘭人が集まつて、もう二日も酒宴を開いてゐる。どうやら無頼の輩《やから》らしい。てつきり何処かへ入寇の目的で集まつたものだ。ある者は小銃を手にし、ある者は拍車の音を立て、また或る者は長劔をガチャガチャ鳴らしてゐる。首領どもは一杯機嫌で、自慢だらだら自分たちが立てた戦功を吹聴したり、正教徒を嘲けり、ウクライナの民をば自分たちの奴隷と呼びなして、勿体らしく口髭を捻つたり、傲慢らしくのけぞつて腰掛の上へ長々とからだを伸ばしたりしてゐる。その仲間に
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