とは、百も承知なのぢや……。」
「でも、この世にあなたの罪業にふさはしいやうな刑罰があるでせうか? まあ、ゆつくりと待つていらつしやるがいいわ。あなたの命乞ひなど、誰ひとりいたしませんわ。」
「カテリーナ! わしには刑罰が怖ろしいのではない、あの世での苦悩が怖ろしいのぢや……。お前は清浄無垢なものぢやから、お前の霊魂は天国の神様のそばへ飛んでゆくことも出来ようけれど、異端者のわしの霊魂は無限地獄の業火に焼かれるばかりで、何時になつても、その火焔の消される時とてはなく、いよいよその火勢が増すばかりで、一滴の水もそそがれねば、一陣の風もそよがぬのぢや……。」
「でも、その刑罰を軽くしてさしあげる力は、あたしにはありませんもの。」さう言つて、カテリーナは背《そび》らを返した。
「カテリーナ! 待つておくれ、もう一と言いひたいことがある。お前はわしの霊魂を救つてくれることが出来るのぢや。お前はまだ神さまがどんなに慈悲深く、寛大であらせられるかを知らんのぢや。お前はあの使徒パウロが曾て罪深い身でありながら、つひに懺悔《くひあらた》めて立派な聖者になつた話を聞いてをるぢやらうが?」
「あなたの霊魂
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