ラ・ポドトチナ
[#天から4字下げ]プラトン・グジミッチ様

【そうか】と、コワリョーフは手紙を読み終ってつぶやいた。【すると夫人には何の罪もなさそうだな。こいつは訝《おか》しいぞ! それにこの手紙の書きぶりは、罪を犯した人間の書きぶりとはまるで違う。】この八等官は、まだコーカサスにいた頃、何度も犯罪事件の審理に出張したことがあるので、こういうことには明るかった。【では、いったいどうして、何の因果でこんなことが起こったのだろうか? ちぇっ、てんでまたわからなくなってしまったぞ!】しまいにこう言って彼はがっかりしてしまった。
 そうこうするうちに、この稀有な事件の取沙汰は都の内外に拡がって行ったが、よくある例《ため》しで、いつかそれにはあられもない尾鰭《おひれ》がつけられていた。当時、人々の頭が何でも異常なものへ異常なものへと向けられており、ごく最近にも磁気学の実験が公衆の注意を惹いたばかりの時であった。その上、コニューシェンナヤ通りの*踊り椅子の噂もまだ耳新しい頃であったから、たちまち、八等官コワリョーフ氏の鼻が毎日かっきり三時にネフスキイ通りを散歩するという評判がぱっと立ったのも、別
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