ついた。「きょうはねえ、プラスコーヴィヤ・オーシポヴナ、コーヒーは止しにするぜ。」と、イワン・ヤーコウレヴィッチが言った。「そのかわり、焼きたてのパンに葱《ねぎ》をつけて食べたいね。」(つまり、イワン・ヤーコウレヴィッチにはコーヒーもパンも、両方とも欲しかったのであるが、一どきに双方を要求したところで、とても駄目なことがわかっていた、それというのも、プラスコーヴィヤ・オーシポヴナが、そうしたわがままをひどく好かなかったからである。)【ふん、お馬鹿さん、欲しけりゃパンを食べるがいいさ、こちらにはその方が有難いや。】と、細君は肚の中で考えた。【コーヒーが一人前あまるというもんだからね。】そしてパンを一つ食卓の上へ抛り出した。
イワン・ヤーコウレヴィッチは、礼儀のためにシャツの上へ燕尾服をひっかけると、食卓に向かって腰かけ、二つの葱の球に塩をふって用意をととのえ、やおらナイフを手にして、勿体らしい顔つきでパンを切りにかかった。真二つに切り割って中をのぞいてみると――驚いたことに、何か白っぽいものが目についた。イワン・ヤーコウレヴィッチは用心ぶかく、ちょっとナイフの先でほじくって、指でさわっ
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