いつの妻になつてしまふのだ。ところで、身分の高いあいつらの父親《おやぢ》どもといへば、そろひもそろつて八方美人で、宮廷への出入りを狙ふ手合だが、あれでゐて自分免許に、愛國者だの何だのと納まりかへつてゐるものの、どつこいこの愛國者先生、利權漁りに憂身をやつしてばかりござる! どうせ虚榮坊《みえばう》で背信的な先生がただから、金錢《ぜにかね》のためなら親だらうが神だらうが見境なしに賣り飛ばす! これもみんな虚榮心のさせる業だが、その虚榮心はどこから生まれるかといへば舌の根元に小さな腫物があるからで、その腫物の中にはピンの頭ほどの小蟲がゐる。それといふのも、ゴローホワヤ街に住んでゐる何とかいふ理髮師の小細工さ。そやつの名前はつい忘れて思ひ出せないが、何でもある産婆と共謀《ぐる》になつて、マホメット教を世界ぢゆうにひろめようと目論んでゐることだけは紛れもない事實で、そのお蔭で佛蘭西では國民の大半が既にマホメット教に歸依してゐるといふ評判だ。
幾日でもない 日數にはいらぬ日であつた
ネフスキイ街《とほ》りを微行で歩く。今上陛下がお通りになつた。市《まち》ぢゆうの者が帽子を脱つたのでおれ
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