ことは、もうちよつとお話しましたわねえ。とても變な方なの……。』
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そらおいでなすつたぞ! おれはちやあんと知つてゐたんだ。犬つて奴は何を見るにも政治的な眼で觀察しをる。ふむ、そのパパがどうしたんだつて? ええと、――
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『……とても變な方なの。いつもは大抵しんねりむつつりで、めったに口をおききにならないのよ。それが一週間ぐらゐ前から、※[#始め二重括弧、1−2−54]おれも貰へるかな、それとも貰へないかしら?※[#終り二重括弧、1−2−55]つて、しよつちゆう獨りごとを仰つしやるぢやないの。片手に何か書きつけを持つて、片手は空のままで握りしめてさ、※[#始め二重括弧、1−2−54]おれも貰へるかな、それとも貰へないかしらん?※[#終り二重括弧、1−2−55]だつて。一度なんか、あたしをつかまへて、※[#始め二重括弧、1−2−54]なあ、メッヂイ、お前はどう思ふ、おれも貰へようかなあ? それとも貰へないだらうかなあ?※[#終り二重括弧、1−2−55]つてお訊ねになるのよ。だつて、あたしには何のことやらさつぱり分らないから、旦那樣の長靴をちよつと嗅いでおいて引き退つたわ。それからさ 〔ma《マ》 che`re《シェール》〕(いとしいかた)、何でも一週間ほど過ぎてから、このお父さまつたら、大層な御機嫌で歸つていらしたことがあつたの。そして午前ちゆうはひつきりなしに、禮服をつけた方たちがあとからあとからとお越しになつては、何かお祝ひを述べていらしたやうだわ。お食事のあひだも、いろんな逸話なんかなすつてさ、これまでにつひぞお見受けしたこともないくらゐそれはそれは上々の御機嫌だつたわ。お食事の後で、あたしを御自分の頸のところへお抱きあげになつて、※[#始め二重括弧、1−2−54]そうら、メッヂイ、これを御覽。※[#終り二重括弧、1−2−55]つて仰つしやるぢやないの。見れば、何だかリボンみたいなものなの。あたし嗅いでみたけれど、ちつとも好い匂ひなんかしなかつたわ。しまひに、そつと舐めて見たら、ちよつぴり鹽からかつたけれど。』
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ふむ! この狆ころめ、どうやら少し圖に乘りくさつたな……笞でぶん毆られなきやよいが! それはさうと、ぢやあ、あの局長はなかなかの野心家なんだな。こいつはよく憶えておかにやあならんて。
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『では、ちよつと失禮、〔ma《マ》 che`re《シェール》〕!(愛する友よ!)、あたし、ちよつとそこいらまで一走り行つて來るから中座してよ……。でも、あとは明日すつかり書くわ。――今日は! さあ、またお手紙に取りかかりませうね。あの、今日うちのソフィーお孃さまつたらねえ……。』
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そうら! おいでなすつたぞ。ええと、お孃さんがどうしたんだつて? ちえ、畜生め!……おつと、大丈夫、大丈夫……さあ、あとを讀まう。
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『……ソフィーお孃さまつたらね、今日はとても大騷ぎだつたのよ。舞踏會へいらつしやるつていふのでさ、でも、そのお留守にお手紙が書けると思つて、あたし嬉しくなつてしまつたわ。うちのソフィーさまつたら、いつでも舞踏會とさへいへば、とても大はしやぎなの、尤もお召しかへの折にはきまつてぷりぷり八つ當りをなさるけどさ。あたしには人間つてどうしてあんな着物なんてものを着るのか、さつぱり譯がわからないの。何だつて、あたしたちみたいに、裸かで出歩かないのでせうね? その方が便利で、氣持も樂でせうにさ。ねえ 〔ma《マ》 che`re《シェール》〕(親愛なる友よ)、どうして舞踏會へ行くのがあんなに嬉しいのか、さつぱり分らないわ。ソフィーさまが舞踏會からお歸りになるのは、いつも朝の六時ごろで、たいてい蒼白めて窶れきつた顏をしていらつしやるところを見ると、お可哀さうに、きつと舞踏會では何んにも召しあがらないらしいのよ。正直なところ、そんな苦しい眞似は迚もあたしには出來ないわ。だつてさ、蝦夷山鳥の入つたソースとか、鷄肉《とり》の翼下《はねした》のローストでも食べさせて貰へなかつたら……それこそ、あたし、どうなるか分らないと思つてよ。お粥にソースをかけたのだつて美味《おい》しいわ。でも人參だの、蕪だの、食用薊なんてものは――ちつとも美味《おい》しいものぢやないわ。』
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おつそろしく斑《むら》のある文章だ! 一目で人間の書いたものでないことが分つてしまふ――初手《はな》はちやんとまとまつてゐたが、末の方で犬式に足を出してしまつてゐらあ。どれ、もう一つの方のを讀んで見よう。ちと長つたらしいな。ふむ! 日附がないや。
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『まあ、ちよいとフィデリさん、何となく春めい
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