ていったが、とうとう終いに幽霊が、突然くるりと後ろを振り向いて立ちどまりながら、「何ぞ用か?」と詰問するなり、生きた人間には見られないような大きな拳を突きつけたので、巡査は「いや、別に。」と言ったきり、ほうほうのていで後へ引っ返してしまった。しかし、この時の亡霊は、はるかに背が高くて、すばらしく大きな口髭《くちひげ》をたてていた。そしてどうやらオブーホフ橋の方へ足を向けたようであったが、それなり夜の闇の中へ姿をかき消してしまった。
[#地から3字上げ]一八四〇年作

   訳注

 暦の別の個所をめくった――ロシア正教の暦には各々その日に命名すべきクリスチャンネームが数個ずつ指定してあるからである。
 アカーキイ・アカーキエウィッチ――ロシア人の名前には父称といって自分の父の名に一定の語尾を附したものが添えられる。名前に父称をつけて相手を呼べば、それだけで敬語となり、様とか殿という敬称を必要としない。
 ファルコーネ――モーリス・エチエン 1716―1791. フランスの彫刻家。一七六六年ロシアへ招かれてペテルブルグにピョートル大帝の像を作った。
 ヴィスト――骨牌遊びの一種。
 戟《
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