・イワーノヴナのところへ!」と馭者に命じておいて、自分はじつにふっくらと温かい外套にくるまると、ロシア人にとってとうていこれ以上のことは考え出されないくらい愉快な状態、つまり自分では何ひとつ考えようともしないのに、一つは一つより楽しい思いがひとりでに浮かんできて、こちらからそれを追っかけたり捜し求めたりする面倒はさらさらないといった状態に身を委せたのである。すっかり満足しきった彼は、今すごして来たばかりの夜会のあらゆる愉快な場面や、少人数のまどいをどっとばかりに笑わせたいろんな言葉をそこはかとなく思い出した。そして、それらの言葉の多くを声に出して繰り返してみたりさえしたが、それがやはり先刻のとおりいかにもおかしく思われたので、彼が自分でも肚の底からふきだしてしまったのもけっして不思議ではなかった。とはいえ、その境地も時おり、どこからどういう仔細があってとも知れずに、だしぬけにどっと吹き起こる突風のために妨げられた。風は彼の顔へまともに吹きつけて、雪の塊りを叩きつけたり、外套の襟を帆のように吹きはらませるかと思うと、たちまち超自然的な力でそれを首のまわりへ捲きあげたりしたため、彼は絶えず
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