ったものである。彼が下僚を相手にとり交わす日常の会話も、いかにも厳格な調子で、ほとんどつぎの三、四句に限られていた。【言語道断ではないか? いったい誰と話しているのかわかっとるのか? 君の前にいるのを誰だと思う?】そうはいっても、根は善良な人間で、同僚ともよく、人にも親切であった。ただ勅任官という地位がすっかり彼を混乱させてしまったのである。勅任官の位を授かると、彼は妙にまごついて、ひどく脱線してしまい、まったく自分をどうしたらいいのか、さっぱり見当がつかなかったのである。たまたま、同輩の者と一緒のときはまだしも、決して申し分のない、なかなかしっかりした人柄で、あらゆる点において如才のない人間でさえあったが、いったん自分より一級でも下の連中の仲間へ入ったが最後、彼はまるで手も足も出なくなって、しんねりむっつりと黙りこんでしまう。そのようすが、彼自身でもこれとはくらべものにならないほど愉快に時を過すことができそうなものをと感じているだけになおさら憐憫《れんびん》の情をそそるのであった。時には彼の目にも、何か面白そうな集《つど》いや談笑の仲間入りがしたくてたまらないという激しい欲望のほの見
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