して、「あっ!」と、ほとんど声に出して叫ぶなり、急いで十字を切ったものである。毎月たった一度ずつではあったが、彼は外套のことを――ラシャはどこで買ったらいいか、色合はどんなのがよくて、値ごろはどの辺にしたものだろう、などと、ペトローヴィッチのところへ相談に出かけた。そして、いくぶん不安になりながらも、そうしたものが全部買い調えられて、やがては外套のできあがる時が来るのだと考えて、いつも満足して家へ帰るのであった。ところが、事は彼が予期したよりはるかに手っとり早くはかどった。まったく思いがけなくも、局長はアカーキイ・アカーキエウィッチに対する賞与を四十ルーブルや四十五ルーブルどころか、じつに大枚六十ルーブルと指定してくれたのである。はたして彼が、アカーキイ・アカーキエウィッチに外套の必要なことをそれと察してくれたのか、それとも自然にそういうことになったのか、それはともかく、これで彼の懐ろには二十ルーブルという余分の金が生じたわけである。こうした事情によって、問題は意外にその速度を早めた。で、さらに二、三ヵ月のあいだ多少の空腹を辛抱すると、アカーキイ・アカーキエウィッチの手許には正しく八十
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